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大阪地方裁判所 昭和44年(行ウ)51号 判決 1975年3月25日

大阪市東住吉区山坂町二丁目五四番地

原告

佐近ツヅ子

右訴訟代理人弁護士

香川公一

大阪市東住吉区中野町一三三番地

被告

東住吉税務署長

佐竹三千雄

大阪市東区大手前之町

被告

大阪国税局長

山内宏

右被告両名指定代理人検事

細井淳久

同訟務専門職

河口進

同大蔵事務官

岸田富治郎

吉田秀夫

租家孝志

右当事者間の更正処分取消等請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告東住吉税務署長が昭和四一年一一月八日付でした、原告の昭和四〇年分所得税の更正並びに過少申告加算税の賦課決定を取消す。

2  被告大阪国税局長が昭和四四年三月五日付で、前項の更正に対する原告の審査請求を棄却した裁決を取消す。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決

二  被告ら

主文同旨の判決

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は化粧品販売業を営む者であつて、大阪市東住吉区内の零細商工業者が自らの生活と営業を守ることを目的として組織した東住吉民主商工会並びに大阪府下の各商工会の結集した大阪商工団体連合会の会員であるが、昭和四一年三月一五日被告東住吉税務署長(以下、被告署長という)に対し昭和四〇年分所得税につき総所得金額を五六万五八三〇円、所得税額を二万八九五〇円として白色申告書による確定申告をしたところ、被告署長は昭和四一年一一月八日総所得金額を九八万四四三三円、所得税額を一〇万一〇〇〇円とする更正並びに過少申告加算税三六〇〇円を賦課する決定をし、同月九日その旨原告に通知した。

2  そこで、原告は同年一二月七日右処分につき被告署長に対して異議申立てをしたが、同署長は昭和四二年一二月二七日これを棄却するとの決定をし、同日その旨原告に通知したので、原告は昭和四三年一月二三日被告大阪国税局長に対して審査請求をしたところ、同局長は昭和四四年三月五日これを棄却するとの裁決をし、同日原告にその旨通知した。

3  しかし、被告署長のした本件更正には、次の違法がある。

(一) 本件更正通知書にはその理由として国税通則法第二四条の規定によると記載されているのみで、その後の異議申立てに対する決定並びに審査請求に対する裁決によつても更正の理由は充分明らかでなく、これは不服審査制度における争点主義に違反する。

(二) 国税通則法第二四条によると、更正は調査に基づきなされるべきものであり、かつ右調査は納税者の生活と営業を妨害することのない適正なものであることを要求されるところ、被告署長は原告に対し不当な調査をし、かかる不当な調査に基づいて本件更正をした。

(三) 更正は税務法規の執行として適正かつ平等になされなければならないのに、被告署長は、原告が商工会々員である故をもつて、他の納税者とは差別的にかつ商工会の弱体化を企図して、本件更正をした。

(四) 原告の本件係争年分の総所得金額は五六万五八三〇円であり、本件更正は原告の所得を過大に認定している。

4  よつて、本件各処分の取消を求める。

二  請求原因に対する被告らの認否

1  請求原因1のうち、原告がその主張のような東住吉民主商工会および大阪商工団体連合会の会員であることは不知、その余は認める。ただし、確定申告の日は昭和四一年三月九日である。

2  同2は認める。

3  同3については、(一)のうち更正通知書に原告主張のとおりの理由を記載したことは認めるが、その余は争う。

三  被告らの主張

原告の昭和四〇年分の総所得金額およびその内訳は次のとおりであり、その範囲内でなされた本件更正は適法である。

1  売上金額 六〇四万一二一四円

(一) 化粧品 五七五万六二八四円

右は、化粧品の仕入金額四三一万七二一三円を基とし、これをその原価率七五パーセントで除して算出した。

(二) 小間物 二八万四九三〇円

右は、原告申立ての仕入金額二〇万五一五〇円を容認して、これを小間物の同業者の一般的な原価率七二パーセントで除して算出した。

2  雑収入金額 五四万四四〇〇円

3  必要経費 五一九万〇四四九円

(一) 仕入金額 四五二万二三六三円

(1) 化粧品 四三一万七二一三円

(イ) 資生堂大阪南販売株式会社 四一六万二六三九円

(ロ) コーセー商事株式会社 一五万四五七四円

(2) 小間物 二〇万五一五〇円

(二) 公租公課 一万二六〇〇円

(三) 水道光熱費 五万七六四〇円

(四) 旅費 五万七二一〇円

(五) 広告宣伝費 八万三九三〇円

(六) 接待交際費 三万九五〇〇円

(七) 通信費 四万〇八四〇円

(八) 雑費 七万四六六六円

(九) 雇人費 二八万三七〇〇円

家賃 一万八〇〇〇円

4  差引所得金額 一三九万五一六五円

第三証拠

一  原告

乙号各証の成立は不知。

二  被告ら

1  乙第一ないし第九号証を提出。

2  証人高橋正明、同斉藤滉一、同福西喜博の各証言を援用。

理由

一  請求原因1のうち原告が東住吉民主商工会と大阪商工団体連合会の会員であること、および確定申告の日の点を除くその余の事実、並びに、同2の事実は、当事者間に争いがない。

二  被告東住吉税務署長に対する請求について

1  まず、本件更正の手続上の瑕疵につき原告の指摘する点を検討する。

(一)  本件更正通知書には更正の理由として国税通則法第二四条の規定によると記載されているのみであることおよび、原告が白色申告書によつて本件係争年分の確定申告をしたことは、当事者間に争いがない。

ところで、国税通則法第二八条第二項は、更正により課税標準および税額等がいかに変動したかを明瞭にするため、更正通知書に同項各号所定の事項を記載すべきものとし、青色申告に対する更正については、これに加えて所得税法第一五五条第二項が、青色申告書に係る年分の総所得金額等を更正する場合には、その更正をも附記すべきものとしているが、白色申告については、納税者に青色申告者のごとく記帳およびその保存を義務づけていないと同時に、これに対する更正の場合に右のような理由附記をすべき旨の規定もないから、更正の理由を知りうることが望ましいことであるとしても、その記載のないことをもつて当該更正を違法とすることはできない。

(二)  被告署長が、原告に対し不当な調査をし、右の不当な調査に基づいて本件更正をしたこと、および、原告が商工会々員である故をもつて他の納税者とは差別的にかつ商工会の弱体化を企図して本件更正をしたとの点については、本件全証拠によつても、これを窺うことができない。

2  次に、原告の本件係争年分の総所得金額について判断

(一)  仕入金額について

証人斉藤滉一の証言によつて真正に成立したと認められる乙第一号証、証人高橋正明の証言によつて真正に成立したと認められる乙第二号証、証人福西喜博の証言によつて真正に成立したと認められる乙第九号証並びに右各証言によれば、原告が本件係争年中に要した仕入金額は、次のとおりであることが認められる。

(1) 化粧品 四三一万七二一三円

(イ) 資生堂大阪南販売株式会社 四一六万二六三九円

(ロ) コーセー商事株式会社 一五万四五七四円

(2) 小間物 二〇万五一五〇円

よつて仕入金額は右(1)(2)を合計して四五二万二三六三円となる。

(二)  売上金額について

(1) 証人斉藤滉一の証言によつて真正に成立したと認められる乙第六号証、証人高橋正明の証言によつて真正に成立したと認められる乙第八号証並びに右各証言によれば、本件係争年当時、原告が販売した化粧品はいずれも定価による販売を本旨とし、小売店は定価販売を励行するべく仕入先から厳しく指導監督を受けていたこと、右定価販売による売買差益率は二六パーセントであつたことが認められるから、原告も、本件係争年当時、右化粧品を定価販売し、右同率による売買差益金を得たものと推認される。すると、原告の化粧品の売上金額は、次の計算式により、五七五万六二八四円となる。

売上金額=仕入金額4,317,213(1-差益率0.25)=5,756,284

(2) 被告は、小間物の同業者の一般的な原価率が七二パーセントであるとして、小可物の仕入金額に右原価率を適用して売上金額を算出しているところ、右原価率は本件全証拠によつてもこれを認めることができず、他に小間物の売上金額を求めるに足りる証拠はないから、原告の本件係争年分の小間物の売上金額は、仕入金額の二〇万五一五〇円と同額とするほかはない。

よつて、売上金額は右(1)(2)を合計して五九六万一四三四円となる。

(三)  雑収入金額について

証人斉藤滉一の証言によつて真正に成立したと認められる乙第三号証および右証言によれば、原告は本件係争年中に、資生堂大阪南販売株式会社からリベートとして五四万四四〇〇円の雑収入を得たことが認められる。

(四)  仕入金額を除くその他の必要経費について

証人福西喜博の証言によつて真正に成立したと認められる乙第四、第五号証および右証言によれば、次のとおり認められる。

(1) 公租公課 一万二六〇〇円

(2) 水道光熱費 五万七六四〇円

(3) 旅費 五万七二一〇円

(4) 広告宣伝費 八万三九三〇円

(5) 接待交際費 三万九五〇〇円

(6) 通信費 四万〇八四〇円

(7) 組合費 三万〇五〇〇円

(8) 雑費 七万四六六六円

(9) 雇人費 四五万九七〇〇円

(10) 家賃 一万八〇〇〇円

(原告の建物は、店舗部分が約七坪、居住用部分が約一〇坪であるから、必要経費として計上されるべき家賃は、年額三万六〇〇〇円の半額一万八〇〇〇円を超えるものではない。)

よつて、仕入金額を除くその他の必要経費は右(1)ないし(10)を合計して八七万四五八六円となる。

(五)  以上によれば、原告の本件係争年分の総所得金額は売上金額と雑収入金額との合計六五〇万五八三四円から必要経費の合計五三九万六九四九円を差引いて一一〇万八八八五円となり、被告署長の本件更正における認定額を下らないことは明らかであるから、本件更正には、原告の総所得金額を過大に認定した違法はないといわなければならない。

三  被告大阪国税局長に対する請求については、原告は本件裁決の違法事由を何ら主張しないから、右請求はこれを棄却するほかはない。

四  以上の次第であつて、原告の被告らに対する本訴請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石川恭 裁判官 鴨井孝之 裁判官 大谷禎男)

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